よってたかって恋ですか?


 “キミがいるなら大丈夫vv”

    〜しあわせな聖夜を迎えるためには




事件に事故に災害に、
盛り上がったイベントや思わぬ流行ものなどなど、
色々とあったこの一年も、
あと10日ほどと相成りましたねぇと。
それこそ例年と変わりないご挨拶があちこちから聞かれる頃合いで。
過ぎてみれば冷夏だったらしい夏を
とっとと追い出した感のあった早めの秋が、
やはりというか だからかというか、
途轍もない猛ダッシュで罷り越した大寒波に押し出され。
月の初めからという容赦のなさにて
早々とやって来た冬の寒さが列島を覆って始まったのが、
今年の師走であったような。

 “クリスマスムードは、
  以前からも相変わらずに早いめの日本なんだけど。”

欧米…というかアメリカなぞでは、
感謝祭という行事が終わってからが クリスマスへのカウントダウンとされ、
子供たちはワクワクしつつ、
小窓がいっぱいのアドベントカレンダーをめくり始めるのだが、
これが日本だと、
どうかするとハロウィンがまだ済んでないうちから、
囁きやざわめきが始まる 気の早さなのは否めない。
せめて七五三はもっと盛り上げようよ、少子化でもサ。(う〜ん)

 それは さておき

さあ師走だ、あれこれ忙しくなるぞと、
そんな呼びかけから始まった最後の一カ月とあって。
我らが聖家でも、家事の番人・主夫の鑑たるブッダ様が、
狭いながらも物も増えて来たお部屋を見回しつつ、

 『そうだね まずは網戸を洗って、換気扇も外して掃除して』

…なんて、大掃除の計画をさっそくにも立て始め。
イエス様はイエス様で、PC開いて何やら検索を始め、

 『年末年始の特番チェックは任せて』

親指立てて“イイネ”のポーズを決めて見せ。(笑)

 あ・そうだ、年賀状も書かないと

 羊年だっけネ、来年は

 商店街の皆さんからいただいたカレンダーも、
 反りを取るのに吊るしとかないと

 でも、壁に2つくらいと卓上のが1つあれば
 後は使わないよね、どうする?

いかにも年の瀬という話題を持ち出しながら、
忙しそうながらも何とはなくわくわくする12月へ、
世間様同様 泳ぎ出した最聖のお二人だったりし。
さすがに、いきなり催された解散選挙には微妙に縁がなかったし、
全国各地で被害の出た爆弾低気圧(冬型)にも直接には襲われずという、
まま、まずまずな すべり出し。
大きめの売り出しのチラシが頻繁に入るのへブッダ様が一喜一憂し、

 『あああ、これって昨日までだったんだ。
  上白糖がこの値段は滅多になかったのに。』

 『…ブッダ、そんなまで拉がれて残念がらなくとも。』

そうかと思えば、
楽しみにしていた特撮ものの総集編特番が、
選挙の開票速報に押し出され、放映予定は未定という扱いとなってしまい、

 『大人の事情って…。』

 『…イエス、平伏してまで残念がらなくとも。』

いろんな意味から相変わらずのお二人なのもまた、
この国がまだまだ平和だってことの象徴と言えるのかもで。(笑)

 「お…。」

急に寒くなったのでと、一番寒い時期の装いを引っ張り出したそれ、
内側にフリース製のもこもこした起毛がついてる暖かいジャケットを羽織り。
頭にはニット帽も装備しちゃいるが、
ボトムは相変わらずのブルージーンズという、
微妙にバランスの悪いいで立ちをしたロン毛のメシア様。
とんでもない低気圧に見舞われて数日後、
久方ぶりにいいお天気となった空は、
葉の落ちた並木の向こうで結構濃い青を広げており。
それを眩しそうに見上げながら歩んでおれば、
目的地へ差しかかる手前、
踏切のところに立っていた、ダッフルコートの男の子が目に入る。
高校生くらいだろうか、
チェック柄のマフラーに顎先を埋めるようにして、
ぼんやりと立っていたのだけれど。
かんかんかんという乾いた音で警報の鳴る中、
待ち合わせのお相手が来たのだろ、
凭れていた柵から身を浮かせ、表情をほころばせた一連の様子に、

 “いいなぁ、ああいうのvv”

胸の中がほこりと暖まる気がして、
よそ様の幸いながら、ついついこちらもお顔がほころんでしまうのは、
人々へ慈愛を施す、神の子という身だからだろか。
ずんと寒くなったというに、
駅前だの広場だのでは、白い吐息をまとわせつつも
人待ち顔で立ってる人が目につくようにもなっていて。
何も急に増えた訳でもないのだろけど、
こんなに寒いのにねぇと感心してしまうし、
クリスマスを前にして、寒いから尚更に、

 “大事な人と、
  いつもいつも一緒にいたくもなるのかなぁ?”なんて。

そんなことをば勝手に思い当たってしまったヨシュア様。
自分の想いに ふふーと微笑って満足し、
コートのポッケの中のメモを握ると、
さあ おつかいだと商店街のほうへとさかさか急ぐ。
チラシにあった、売り出しの卵1パックをスーパーでゲットし、
ぶなしめじとハクサイ1/2とじゃがいもは 行きつけの八百屋さんで。

 “それから えっと…。”

厚揚げをとうふの吉岡さんで買って、
あとは何だったかなと、丁寧な字で綴られたメモを手に、
トートバッグを薄い肩の上へと揺すり上げておれば、

 「あ、イエスさんだ。」
 「お買い物ですか?」

お昼前という時間帯だのに、
トレーニングウェア姿や制服姿が入り交じってる、
女子高生のお嬢さんたちにお声を掛けられた。
とっくに冬休みだろう頃合いだが、部活での登校中というところだろうかと、
そこはイエスの側でも察しがついており、

 「うん。君らこそ、お昼の買い出しかな?」
 「はい。」
 「マラソン大会が近いんですよぉ。」

苦手だなぁと言わんばかり、ふにゃんと眉を下げた子がいたが、
それとは別の子が、きょろきょろ大きめの眸を泳がせてから、

 「ブッダさんは一緒じゃないんですか?」

他ではともかく、この商店街でイエスが一人でいるのは珍しいと、
他の顔触れまで“そう言えば”という態度になる辺り、
既にそこまで周知となっておいでの 名物お兄さん。
問われて、ああうん・えっとねと、
ちょっぴり戸惑うようなお顔になって見せたのは、だが、
把握され過ぎてる現状へ 鼻白んだせいではなくて。

 「御用があってお留守番なんだ。」

いつもいつも一緒ってワケじゃないんだよと、
苦笑をこぼして見せたけど。
そんな風に思われてることなんて それこそ今更だし、
むしろイエスには嬉しいくらいの“一緒くた”扱いなのであり。
だのに、一瞬とはいえ戸惑って見せたのは、

 “何ぁんか ちょっと水臭いよなぁ。”

彼女らへの説明に困ったというよりも、
自分を買い物に送り出したブッダへの“思うところ”が
その胸中へ ぶり返したからに他ならず。

 『…あ。』
 『どうしたの?』
 『えっとあの、困っちゃったなぁって。』

今朝早くにメールがあったスマホを手の上へと見下ろして、
今日は数量制限があって急がなきゃな特売品があるのに、
仏界から人が会いに来るのだと言い出した彼で。

 “卵は一昨日買ったばかりだったのにね。”

やや巧妙に、けれど見え見えな持ってきようで、
イエスを人払いしちゃったブッダだったが、

 “ブッダが私に会わせたくないとする人っていったら。”

一人だけ心当たりがあるものだから、
隠しごととしては不成立だったりし。
いやまあ、
イエスがまだ知らない明王や天部だっているのかも知れないけれど、

 “ああまで警戒しなくてもいいのになぁ。”

何も心からブッダを困らせたいと思っている彼のお人でもあるまいにと。
自分だって聖母様へついつい突っ慳貪になる思春紀なのを棚に上げ、
恋するヲトメ心の複雑さ…というより、お父さんへの反抗紀っぽい
ブッダの某天部様への先入主へ、
やれやれと肩をすくめてしまったイエスだったところへと、

 「あら、イエスちゃん、いいところへ。」
 「はい?」

そちら様もお買い物帰りか、
イエスのお買い物と同じような品揃えを詰めたバッグを提げておいでの
顔見知りの奥様が、やっぱり気さくそうに声をかけて来て。
奥様同士での話題というの、
自分ではブッダほど即妙には思いつけないのになぁと、
そんなところを残念だなぁなんて思いかかっていたところ、

 「実は、イエスちゃんにお願いがあってネ?」

朗らかに微笑って、そんな風に切り出した奥さんだったのへ。
それじゃあと会釈を残し、
自分たちの買い出しへと向かいかかっていたお嬢さんたちが、
イエス本人よりも先に、何にか思い当たったらしく。
おっ?と表情を弾かれてから、華奢な肩同士を寄せ合うと、
そういうことだよね、うんうんと相槌を打ち合い、
そのまま キャッキャvvと早くもはしゃぎ始めてしまったのは……




     ◇◇◇



 『おや、イエス様はお出掛けなのですか?』
 『ええ。年末ですから、私どもも何かと忙しいのですよ。』

開口一番…というのは言い過ぎだが、
おはようございますというご挨拶のあと、
それとセットになってて当然の慣用句ででもあるかの如く。
松田ハイツのお二階の角部屋、
狭いフラットの中を、わざわざ首を伸ばすようにして
探すようにして見せた彼だったのへ、まずはイラッと来たブッダ様。
イエスの姿がないのがそんなに不審か、という訊き方では
こちらから余計な水を向ける運びになるような気がして、
紋切り型にすぱりとした言いようで片付けたのだが。
つんけんした態度が却って余裕が無さげに映ったか、
かっちりとしたスーツを隙なく着こなす、恰幅のいい天部殿に、
小さな苦笑で返されてしまい。

 『〜〜〜〜。』

それを自分で“あああ負けた”なんて自己採点したのだろ、
苦々しい顔のまま視線を下げてしまう釈迦牟尼様なのが、

 “可愛げが出て来ましたよねぇ。”

相変わらず目ぢからの強い天部様、
宇宙創生のブラフマーこと、仏教守護神の梵天様には
何とも微笑ましくてしょうがないようで。
この程度の機微のやりとり、
勝さろうが劣ろうが 歯牙にも掛けずと澄ましていた余裕の態を、
かつては一応保てていた彼だのにねぇなんて、
天界にいたころを思い出しつつ。
通された六畳間のコタツを勧められ、
腰を下ろして、お茶をいただき…さてさてと。

 「実は、原稿依頼のお願いなのですが。」

場も落ち着いたところで
今日の訪問の本題とやらを持ち出せば、

 「…まさかに新年号っていうんじゃないでしょね。」
 「ええ、新年号はもう発行しておりますよ。」

12月の もう何日だとお思いかと、
全く遠回しにせぬままという揶揄以上のあしらい、
それは はきはきと応じてから、

 「年明けすぐの、仕事始めに合わせた
  新春特別号を発行しようと思っておりまして。」

はっはっはっと、そこで快活に笑ったのは
どうです意外な企画でしょうと言いたいか、
それとも あくまでも定番定例なことだと胸を張ってるだけなのか。

 「〜〜〜〜。」

ブッダとしては、此処はすげなく振り払ってしまいたいところだが、
梵天が持って来る依頼、情報誌『R-2000』の原稿料は 結構美味しい。
天界のノリというものの方が馴染みもあって、
どんなに急な依頼であれ、
ネタを切るのも のたうちまわるほどではなく。
それより何より、歳末は何かと要りようで
資金は幾らあっても大助かり…というのが本音なのだが、

 “でもなあ…。”

歳末の前には もっと大事なことが待ち受けていて。
実をいや、それへの心積もりを固めていた矢先だっただけに、
家計を預かる主夫としての“物差し”より、
そちらを優先したいとする心持ちが どうしても譲れない。
イエスと二人、余裕の年末とお正月を過ごしたければ
確たる臨時収入を得る道を取るべきなれど、

 “年越し以上に特別な日なんだし…。”

他でもない、大切な人が生まれた日。
世界中がお祝いをするほどの日だからこそ、
自分もまた手を尽くして祝いたいし、
心を込めての贈り物だって用意したかったのになぁと。
合理をとるか感性をとるか、
大いに迷っておいでの如来様だったようで。
原稿のほうをやっつけにするというのは、
作家としての矜持もある上、生真面目な彼には憚られること。
だがだが そうなると、贈り物への計画の方が到底成り立たぬと来て、

 「……。」

即妙な理屈も割り切りも出て来ぬまま、
コタツの手前で四角く正座している自分のお膝を見下ろして。
う〜んう〜んと困惑したまま、お返事を出せずにいると、

 「ブッダ、ただいま〜。」

相変わらずに元気なお声が、足音より早くという勢いで戻って来る。
自宅だからと遠慮もなく、
バタンとやや乱暴に開けられたドアから飛び込んで来たは、
臨時収入と天秤にかけてた大事なお誕生日が間近に迫っておいでの

 「イエス。」
 「おお、お帰りなさい イエス様。」

だから、いい反応で中腰になるな すぐさま…と。
内心でとはいえ、来客への結構な悪態をついてしまった気持ちの欠片が
表情の方にも多少は滲んだものか。
ごそごそスニーカーを脱ぎつつ、
上がって来かかっていたイエスが おっ?と意表をつかれたような顔になり。
それからそれから、
遅ればせながら気がついたという体で、

 「あ、梵天さんじゃないですか、こんにちは。」

六畳間のほうへもご挨拶を向ける。
この天部様と自分とが同席するのを嫌がるブッダだと、
以前からも何とはなく気づいていたイエスだったが、

 “何につけ余裕余裕の梵天さんだもんなぁ。”

そんな彼からいいように突々かれて焦る様を、
他でもないイエスに見られたくないからかしらね、可愛い〜いvvなんて。
ちょっぴり斜めに解釈している辺りが、
無邪気で朗らか、博愛主義者のヨシュア様らしい把握だったりし。

 まさかに この梵天氏までも、嫉妬の対象としていようとは

 “…そりゃあ、気がついてないでしょうよ。”

なんて暢気なんだキミはと焦れったい反面、
そこまで悋気深くなろうとは…と、
自身の意外な暗部を自覚して、
あらためて気まずい何かを覚えている如来様なのを尻目に、

 「あ、そかそか。もしかして『R-2000』の原稿でしょか。」

前以ての連絡ありきでこの顔合わせと来ればそれしかないものと、
イエスのほうでも勝手知ったる何とやら、
当たりでしょう?とにこやかに笑ってから、

 「あのね、ブッダ。私も報告があるの。」
 「はい?」

梵天と玄関にいるイエスのちょうど真ん中、
お膝だけを少しほどズラして やや玄関側へ振り返りかけという、
斜めな座りようのまま、
向背においでのイエスを見やっていたブッダなのへ。
とたとたと上がって来たそのまま、
すぐ傍らに、衒いなく すとんと座り込んだ伴侶様。
よほどにいい知らせだということか、
満面の笑みをそのお顔には浮かび上がらせると、

 「去年と同じ条件で、
  雑貨屋さんからアルバイトを頼まれちゃったの。」

 「はいぃ〜?」

そりゃあ朗らかに、そんな意外なご報告をしてくださったのだった。





NEXT


  *クリスマスのお話はやっぱり外せないと頑張ってみたのですが、
   何でだか長引いております。
   勘が鈍りまくっとるなぁ、とほほん。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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